番外編 — シニア世代 武人の心得

番外編 — シニア世代 武人の心得

40代で20代に勝つ方法

実践的な空手道に於いて選手として戦える年齢の限界は幾つまでなのか考えたとき、勿論個人差はあるものの、40代前半までであれば肉体・精神力共に成長過程の範疇であり、20 代と同じ土俵でも場合によっては勝つ事も充分可能である。

勢いの20代、円熟の30代、そして40代はあえて云えば完成された40代とも云える。戦いの読み、人間的な懐の深さ、技の熟練度、不動心の構え、精神力の強さ、40代には最強の要素として必要なカテゴリーを備えた状態に尤も近いポテンシャルで事に臨む姿勢が完成されている。経験則から云えば肉体的には持久力、筋力共に42、3歳位までなら記録が伸ばせるはずである。よって、大きな怪我などがなければ40代前半はまだまだ20代30代の選手と同等に現役で活躍できる。

40代前半であれば、逆に円熟味を増し技や戦い方に深みが加わり、時として20代の選手の勢いや30代の選手の力を凌駕する技術を身に付けていることから、若い選手には出来ない戦い方や間の取り方が出来る。相手を見る力の真理を経験値から判断し弱点を見極める力が40代の武人には備わっている。

また、40代から初めて空手を始める場合でも、十分に見どころのある成長を遂げることができる。その最大の利点は真面目さである、20 代の若者のように不埒(ふらち)な考えもなく不純な動機もなく、あくなき自己成長を求める謙虚な真面目さを持って空手を始める者の殆どが40代の初心者である。その姿勢は稽古を積むうちに精神的な成長として早々と表れてくる、若者のように肉体の成長が鈍いジレンマに打ち当たる事もあるが、40代なりの独特の技の完成形も実はある。柔軟性や技の柔らかさは若者に劣る場合もあるが、一瞬のスピードや拳の硬さや重さなど欠点を利点に変える技の組み立ても可能である。コツを覚え自分の利点を知れば十分に己の戦い方を基本とした己独特の空手道スタイルを作り出す事ができる。時として40代から初心者として空手を始めても20代と互角に渡り合える技量を身に付ける賢者も人によっては存在する。

40代実際にイザ闘わば

40代で最も不利な身体能力が持久力かもしれない、20代の選手は勢いもあり伸び盛りでスタミナも充分である。よって持久力のみで若者と立ち合おうと思うのは得策ではない、40代には40代なりの戦い方がある、考え方を肯定的に捉えれば、空手の基本的哲学である一撃必殺こそ40 代に必要な特有の攻撃戦法であるかもしれない。機先を制する先手必勝方は短時間に勝敗を決する最も有効な戦い方法でありスタミナや持久力の有る無しはさほど関係はしない、ある意味40代でも20代と変わらず行える戦法でもある。また、さばいて躱し受け流す戦術は、多様な技の見極めによって、技の際で相手を躱す方法であり、相手のバランスを崩し倒して急所への一撃で止めを刺す方法として40代に適した闘い方でもある。

40代の最高の強みは冷静さである、決して動揺したり慌ててはいけない、冷静に相手を見極める、そして心を読む、そこが40代の強さである。

強さは単純な肉体的指数で計れるものではない。積み重ねた経験や実績からなる勘や熟練度により若き力を凌駕する凄味のある強さが生まれる。

進化する50代

求道には終わりは無く齢50代に差し掛かっても武道の追求には終わりは無い。寧ろ50代になっても新たな発見が日々の研鑽の中から生まれて来るものである。それは内面的な精神性の部分の新たな境地の開拓でもあるし、精神性の部分に限らず肉体的にも新たな発見と進歩を修得することが得てしてよくある。

何十年と肉体を動かし研鑽を重ねてきたとしても己の躰の全てを知る事など到底できてはいない、肉体は複雑で未知数に富んだ何十億兆と云う細胞で組織され原型をなしている。50歳を過ぎたとしても、己の躰の関節や筋や骨、筋肉の全ての仕組みを把握し切れてはいないものである、稽古に研鑽を重ねる程に、自分の躰に、こんな可動範囲があったのか、こんな鍛え方があったのか、等、50代でも修行の中で新しい肉体面の発見に気が付く事がしばしばある。すなわち50 代でも空手道の技量は進化し成長をし続けるのである。

勿論、物理的に衰えや耐用年数を過ぎた細胞の死滅と遭遇し思い通りに肉体が動かない現実に直面する事もあるが、それを補い違う側面からフォローアップし50代なりの武人の形を作り上げる術を身に付けられる。それは逆に言えば20代30代では成し得る事の不可能な極みの世界、すなわち極意である。

50代になり初めて空手道を学ぶ場合も、その人なりの目的の違いや運動歴の個人差はあるとは思うが、己の精神と肉体の成長と進化を経験する事は間違いなく可能である。また無理のない稽古法により新鮮な感覚やリフレッシュした爽快感などアンチエイジングの効果を齎すこと絶大である。

空手道を経験する新鮮な作用が脳を活性化させ、老化や衰えを防ぎ若々しさを復活させる大きな効果を得られる。また、ある程度、熟練性や道の極意に触れ、空手道の何たるかに近付く事により、精神的な安定や心の深みを備える効果を生み、人生経験とも相乗効果となり畏怖なる人間力の向上と不動心の構えを持った人物へと進化を遂げる事となる。

空手道は、生涯かけての自己実現への道であり、その修練や修養に終わりはない。その意味に於いては武の道は生涯現役の道と云っても過言ではない。

50代実際にイザ闘わば

修行で培った進化を繰り返し完成された技は強い、技に凄味と深みがある。これこそが極意と云える技の形である。それは実戦でも使用可能な技でもあり、意外にも競技試合ではなく、実戦的なルール無用の戦いの時にこそ効果が現れる極めた術である。長年の研鑽で培われ魂を得た技には極意の力が備わっている、そうした技こそが一撃必殺の理想形に近い技と云えるのかもしれない。

勢いだけの成り振り構わない若者の攻撃や攻めは、荒く隙だらけで欠点があからさまに見える技である、人間的にも不安定で軸が定まらない輩の攻めは油断の産物でしかない、その弱点に虚を衝く極意の技の一撃は相手の弱点を突き必殺の一撃となる事が多い。

50代侮るべからず、真の空手道の強さは50代から栄える事を知るべしである。相手の素早い技や攻撃も、その基は脳から刺激をうけ脳からの命令によって体が動く、その見極めと相手の真理を読めるのが50代の不動心の安定した心の眼である。また極めた達人であれば相手の脳の命令までをもコントロールし相手が金縛りのように体が硬直し動けない状態に促す不思議な気の力を放つ事もあり得る。積み重ねた技は見えざる気の力を放ち、敵を翻弄する。これぞ正に50代武人の闘い方である。

武士道シニア世代 空手道の心得 総括